札幌高等裁判所函館支部 昭和26年(う)39号 判決
まづ原判決が証拠として掲げる検察事務官作成に係る被告人の第一、二回供述調書に記載された供述が任意にされたものでないとの論旨について判断する。所論は右調書は数ケ所にわたり合計十数行位が訂正抹消されているので任意の供述を記載したものではないというけれども、所論のような訂正抹消のあることは認められるが、之は被告人の供述が一貫せず、一度その供述を記載した後に供述を変更したため、その変更したところに従つて書改めた結果と考えられるので、右訂正抹消があることによつては供述の任意性を否定できない。所論は次に右調書の供述記載には前後矛盾するところがあるから任意の供述ではないというのであるが、所論のように前後相反する部分のあることは認められるが之は調書の証明力の問題であつて、任意性がないことの資料とはなし難い。所論はさらに被告人は意思にないことを言わせられたのであるとか、被告人は病弱の身で酷暑の候に四十日間も身柄を拘束されて各地の拘置所を転々として疲労困憊し、弁解も容れられないし、八十余名の従業員を擁しているのでその生活も保証しなければならないため、早く拘置所を出たいと思つてした供述であるから任意の供述ではないというけれども、記録を精査しても右供述が所論のような関係から任意にされたものでないことを認めるに足る資料がないばかりでなく、右調書については原審第九回公判期日におて検事より証拠調の請求があつたのに対し、主任弁護人は之を証拠とすることに同意し、証拠調に異議がない旨陳述していることと、右調書の末尾に右録取し読聞けたところ事実誤りない旨申立て署名指印した旨の記録があり、右調書の始めに、あらかじめ供述拒否権があることを告げたところ任意に供述した旨の記載があること、原裁判所は右調書末尾の被告人名義の署名指印が被告人自身のものであることを確めていること及び右調書記載の供述内容に照し右供述は任意にされたものと認めることができる。
しかのみならず記録を調べても被告人及び弁護人が原審において右供述の任意性につき争つた形跡が少しも認められないので、控訴審においてはじめてその主張をするものと解するの外ないが、前記の通り弁護人は原審において右調書を証拠とすることに同意し、その供述の任意性について争つていない以上控訴審においてはじめてかかる主張をすることは控訴審が事後審たる関係上許されないものといはなければならないから、右主張はそれ自体失当で採用の限りでない。
以上いずれの点からしても右論旨は理由がない。
次に事実誤認の点について判断するが、原判決挙示の証拠によると、小山内行雄、富永幸次郎こと李熙載等が原判示の通り密輸入をしたこと、右密輸入貨物は厚岸町高木藤作の使用人等によつて陸揚げされたが、次いで貨車によつて札幌市に輸送され、同市北五条東二丁目二番地キンシ鉛筆株式会社倉庫に入庫されたこと及び被告人はその都度右貨物が密輸入品であるとの情を知りながら右倉庫にこれを入庫し保管したものであることを認めることができる。然しながら被告人が右貨物を厚岸町真龍町から右倉庫まで輸送したとの事実は記録を精査しても之を認めることができないから、右輸送の事実を認めた原判決には事実の誤認があり、この誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるからこの点において原判決は破棄を免れず、論旨は理由がある。
被告人魚山秀一弁護人の控訴趣意第一点について
所論の通り原判決は被告人が小山内行雄、富永幸次郎こと季熙載等と共謀して二回に鉛筆合計三十箱(この公定価格四十一万六千二百六十二円)を密輸出し、生ゴム三トン(この公定価格十八万円、――原判決は六万円と認定しているが昭和二三年八月七日物価庁告示第六二四号によると一トン六万円で、三トンが十八万円であることが認められる)を一回密輸出した事実を認定し、被告人から右価格の全額四十七万六千二百六十二円を追徴している(右価格は正確には五十九万六千二百六十二円となるのであるが原判決は三トンを六万円と誤算した結果右金額の追徴をしたものと認められる)関税法第八十三条は犯人の所有又は占有に係る密輸出又は密輸入貨物を沒収できないときはその貨物の原価に相当する金額を犯人より追徴することを定めており、本件は被告人及び外二名の共同犯行であるが、密輸出入に係る貨物の所有者又は占有者がその内一人又は二人であることを認めるに足る証拠なく、むしろ共同犯行であることに照し、右貨物に対し被告人は他の二名と共同で所有権又は占有権を有していたと認めるのが相当である。而して所論は犯人が数名であるから、追徴額は各犯人に分割してなすべきであるというのであるが右貨物は各犯人共同の所有又は占有に属するので各犯人からそれぞれ全貨物の沒収ができるから、沒収に代るべき追徴も之と同じく各犯人から全額を追徴できると解するのが相当である。従つて原審は本件の場合被告人からその全額を追徴したことは正当である。尤も原判決が右全貨物の原価を四十七万六千二百六十二円と計算して之を追徴したのは誤りで、真の原価は五十九万六千二百六十二円であること前記の通りであるけれども、当審において原判決を破棄し、右金額を追徴することは被告人の控訴した本件において原判決より重い刑を言渡すことになるので之をなすことはできない。従つて結局論旨は理由がない。
(以下省略)